2006年09月06日

私はボタンを縫っていた。

台所からは醤油の香りがしていた。

今日のご飯は和食だな。

そう思いながら二つ目のボタンを縫った。

どうしてそんな事を思ったのか。

私は一人暮らしである。

同棲をしようと提案されても言い訳をつけては断ってきた、

生粋の一人暮らし信者である。

四つ目のボタンを縫い終わった頃、

縫い終わってから行こうと我慢していたトイレに立ち、

ついでに台所をのぞいた。

そこには当たり前のように彼女が立っていて

私はトイレに行くことを忘れ

彼女の立ち姿を ただ見た。

それから彼女は毎日のように夕暮れになるとそこに立っていた。

紺色の、少し大きなエプロンが良く似合っていて

ポケットに手を突っ込ませて献立を考えている。

彼女は、自分に似合う服を良く知っている人だった。

彼女の動作ひとつに服の方が合わせている。

どこにでもあるような単純な服が

彼女の空気に袖を通すと

すっかり素敵に見える。

そして今日も台所から醤油の香りが漂う。

それは何故か料理の種類とは関係のない香りだった。

パスタを作っても味噌汁を作っても

台所から漂ってくる香りは決まっていた。

凶気にも変わる人を選ぶ包丁は、彼女を選び

彼女の包丁からは日常の香りだけがしていた。

私は作りかけのワンピースを、彼女に似合うように

ほどき始めていた。




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posted by ちむ at 03:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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