台所からは醤油の香りがしていた。
今日のご飯は和食だな。
そう思いながら二つ目のボタンを縫った。
どうしてそんな事を思ったのか。
私は一人暮らしである。
同棲をしようと提案されても言い訳をつけては断ってきた、
生粋の一人暮らし信者である。
四つ目のボタンを縫い終わった頃、
縫い終わってから行こうと我慢していたトイレに立ち、
ついでに台所をのぞいた。
そこには当たり前のように彼女が立っていて
私はトイレに行くことを忘れ
彼女の立ち姿を ただ見た。
それから彼女は毎日のように夕暮れになるとそこに立っていた。
紺色の、少し大きなエプロンが良く似合っていて
ポケットに手を突っ込ませて献立を考えている。
彼女は、自分に似合う服を良く知っている人だった。
彼女の動作ひとつに服の方が合わせている。
どこにでもあるような単純な服が
彼女の空気に袖を通すと
すっかり素敵に見える。
そして今日も台所から醤油の香りが漂う。
それは何故か料理の種類とは関係のない香りだった。
パスタを作っても味噌汁を作っても
台所から漂ってくる香りは決まっていた。
凶気にも変わる人を選ぶ包丁は、彼女を選び
彼女の包丁からは日常の香りだけがしていた。
私は作りかけのワンピースを、彼女に似合うように
ほどき始めていた。


