2006年09月16日

見繕い

赤いマグロに助けられた。

それはちっともありがたくもなくって

生々しくて気持ち悪かった。

助けてもらった分際で

私はずっとそんな事を考えていた。

瞬間瞬間でマグロがシャックリをする。

その度に照れ笑いをするので

私はどう反応してあげたらいいか分からない。

赤いマグロのシャックリは高い音をしていて

なんだか赤いマグロの頭上から私のみみに届くので

最初はどこから聞こえてくるのか気付かなかった。

可愛いのかも。そこで初めて思った。

人の気持ちというのは何がきっかけになるかわからないので困る。

この赤いマグロが可愛いと思う自分さえも可愛く思えてくる。

なんだかよく分からない。

流されているような気もするけれど心地いい。

目の前の赤いマグロが生々しいことだけは事実のはずであるのに。

なんだかよく分からない。

なんだかよく分からない間に指先に何かが降りてきて

何度かひゅーぅと音を立てた。

くもの巣だ。私の最も嫌いなものだ。

最もかどうかは別にしてもとにかく嫌いなものだ。

慌てて何度も指をはらうと

波の表面に立っていた赤いマグロと私は

くもの巣に波の雫を連れたまま

枝の上に居た。

キラキラと反射する私の指のくもの巣を

コウモリたちが嫌がってキィキィ鳴いている。

赤いマグロは黙って私の指を見ていて、

それは多分見とれていたのだと思うけれど、

本当の所は分からない。

聞くのは野暮な気がした。

私はそういうところがある。

格好つけては一人で決め付けている。

一人反省していると

赤いマグロが首をかしげた。

首という首はないが

ん?という感情を体で表した気がしたので、

私は「なんでもないよ」と答えて、座りやすいような枝のくぼみを探した。

「嘘をつくのはなんて簡単なんだ」

と、赤いマグロも太い枝のくぼみに体を預けながらそう言った。

それは私に投げかけた言葉だったが、

私に合う枝と赤いマグロの体に合う枝は同じではないので、

赤いマグロと私とは、遠い場所に 居た。

赤いマグロの声が高いのはシャックリだけで、

話す声は低くて聞きづらかった。

聞きづらいながらも何を言っているのか理解出来たのだが、

あまりに感慨深く言うので

放って置いた。

そんな気分の時は、誰かの意見が欲しいわけではないのだと、

また格好つけては一人で決め付けた。

自分に当てはめて考えてごらんと、

幼稚園の先生が言っていたことを今だに守っている私はケナゲだよなーと密かに思いながら、

森を見ていた。

暗示は続いていると、こっそり笑った。

それでも話は聞いているという姿勢は、

赤いマグロに伝わるような素振りをしていた。

何かをしながら違う事をするのは苦手だが、

今のコレはうまくいっている気がする。

嫌いだった幼なじみを思い出しながらも、

赤いマグロのことを気にかけてあげることが出来ている。

しかし私はこんなに赤いマグロに思い入れをして大丈夫だろうか。

感情移入とはこの事か。近所のマキちゃんにはあんなに泣かれたのに。

あんたには感情が無いのどうしてそんなに冷たいのこれから先きっと痛い目に合うよ。

そんだけ言えるあんたの方が冷たいんじゃねぇか

と突っ込みながらも頷いておいた小さい私。

その場を凌いでいた私。

今はなぜか、感情が渦を巻いて私を取り巻いているような感覚にいる。

人間ではなくてこの赤いマグロに感情の渦を敏感にされている。

私は昔から、人間よりも無機質なものに感情を見出したりしていた。

ただの机や椅子や洗濯機だといわれるようなものが

私には生きているように思えて、

自宅を新築にする時は本当に悲しかったものだ。

私は両親が心配するほど冷たいと思われていたが、

その両親が驚いていたほどである。

効かないエアコンや小さなテレビやうるさい冷蔵庫などを見捨てるようで、

自分が残酷なような気がした。

自分の残酷さを認めない術を身に付けてはいたが。

理解されないだろうと決め付けていたし、格好悪いと思えたのだろう。

格好悪いと思っていること自体が格好悪いという事も隠していたかったのだ。

イイとか悪いとか、誰かが考えた印象にはまろうとしていたのは私だった。

臭い反感歌を聞いては密かに共感していたけれど

私は自ら何かにはまろうと足を突っ込んでいた。

明らかな話だ 今の状況よりも。

そんなことを静かに今更に考えていると

枝から転げ落ちた。

欠点なく枝に座っていたはずなのに。

コロコロと転がっている最中も何か考えていたけれど、

止まった途端忘れてしまった。

簡単なものである脳みそは。きっと単純なものである。

複雑化させた自分を呪う気にもなるほど、私は混乱していた。

赤いマグロに会うまで。

赤いマグロに余計に混乱させられている気もするけれど、

きっかけはなんでもいい。

私には感覚など無いと思っていた。

しかし赤いマグロは理由なくあらわれた。

理由をつけたがる私の前に、理由なく現れた。

どうにでもなればいいと思えた。

怖くは無かったし流れに任せようという投げ出すような感覚でもない。

口からでまかせがポンポン出てくるような感じだ。

それでもそれはあるべき場所にある。

ちょうど見えた長めの草を掴んでようやく止まる事が出来ていた。

赤いマグロはまだ上にいる。

心配そうに私を見ている。

さっき会ったばかりなのにと思いつつも感情というものはなんだかありがたい。

「声を上げてくださいしっかりと。」

赤いマグロが深刻な、それでも聞きづらい低い声で言ったあと、

今までで一番高い音のシャックリをしたので、

私は笑い声で返事をした。

ありがとうと返事をした。
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posted by ちむ at 05:18| Comment(7) | TrackBack(0) | 妄想。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月08日

自分拾い。

まっさらなきもちでえいがをみてみたいとおもうことがあるけれど

今まで生きてきたからこその見えかたを

きっとみすみす捨てることはないのだろう。

それまでの人の生き方が、見る対象に対する印象をそれぞれにさせるんだろう。

人生がもし違ったら、もし吹奏楽部にも入っていなかったらもし唯一の友人に会っていなかったらもし言葉にこんなに執着する自分でなかったらもし国語が得意だと誉められていなかったら私はきっと今見た映画に今思った感想を思うことはないんだろう。

だからやっぱり、そんな今までの自分をみすみす捨てることはない。


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posted by ちむ at 06:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 私情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月07日

責任点火。


私は背番号を背負っている。

ビールをちびちび飲みながらその事について考えた。

はてどうやって剥がそうか。私には責任が重すぎるもの。

少年野球では背番号すらもらえなかったのに

大人になった今こんなことになるなんて。

一生懸命だったとき私には何もなかった。

力を抜いたとたん

こんなことになるなんて。

そんな、殺生な。


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posted by ちむ at 05:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月06日

私はボタンを縫っていた。

台所からは醤油の香りがしていた。

今日のご飯は和食だな。

そう思いながら二つ目のボタンを縫った。

どうしてそんな事を思ったのか。

私は一人暮らしである。

同棲をしようと提案されても言い訳をつけては断ってきた、

生粋の一人暮らし信者である。

四つ目のボタンを縫い終わった頃、

縫い終わってから行こうと我慢していたトイレに立ち、

ついでに台所をのぞいた。

そこには当たり前のように彼女が立っていて

私はトイレに行くことを忘れ

彼女の立ち姿を ただ見た。

それから彼女は毎日のように夕暮れになるとそこに立っていた。

紺色の、少し大きなエプロンが良く似合っていて

ポケットに手を突っ込ませて献立を考えている。

彼女は、自分に似合う服を良く知っている人だった。

彼女の動作ひとつに服の方が合わせている。

どこにでもあるような単純な服が

彼女の空気に袖を通すと

すっかり素敵に見える。

そして今日も台所から醤油の香りが漂う。

それは何故か料理の種類とは関係のない香りだった。

パスタを作っても味噌汁を作っても

台所から漂ってくる香りは決まっていた。

凶気にも変わる人を選ぶ包丁は、彼女を選び

彼女の包丁からは日常の香りだけがしていた。

私は作りかけのワンピースを、彼女に似合うように

ほどき始めていた。




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posted by ちむ at 03:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月09日

年中。

朝になってみると

私の頭に星が刺さっていた。

一人で飲んだ酒が抜けていないだけだと思っていたが、

窓に映る自分をみて驚いた。

「よくもまあ目が覚めなかったね」

と笑い声がした。

窓越しに星がしゃべる。

じぃちゃんみたいな声だった。

私はじぃちゃんには会った事がない。

だが、母親から私が生まれた年にじぃちゃんが亡くなったという話を聞いてから、

じぃちゃんの事が頭の隅にずっと存在していた。

その事がまるで物質化されたみたいだと、星を見ながら思った。

いつ来たの?

ずっと前からいるさ。

でも今まで見えなかったよ。

そのうちまた見えなくなるさ。

どうして今だけ見えるの。

お前が自分で判断したのさ。俺は何もしちゃいないよ。

星ってそんなに光ってないんだね。

静かにふんわり光るのが本物ってもんさ。

ちっとも目に刺さらないしずっと見ていられるよ。

甘えちゃいけないよ。

そう聞こえた時にはもう見えなかった。
posted by ちむ at 04:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 抽象。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月08日

育成

クシャクシャになって 簡単に放っておかれた。

もしも私が お出かけ用のハンカチならば、

ちゃんとアイロンをかけてもらえて、

ちゃんとはじっことはじっこを合わせてたたんでもらえて、

準備万端お外へ出られるのに。

だけど私は 溶けてしまう。

勢いで破れてしまう。

間がもたずにガサガサとしていた。

posted by ちむ at 05:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月06日

夕暮れエプロン。

母さんが遠くで料理をしている。

包丁とまな板の音が聞こえてくる。

ザクザクと言ったり。

トントンと言ったり。

そんな音を聞きながら

私は手のひらに包まれた本を読んでいる。

幸せを感じる。

人は人を幸せに出来る。

わたしもいつかそのお役目が出来るだろうか。
posted by ちむ at 04:22| Comment(0) | TrackBack(1) | 私情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

じいさまばあさま。

私の悩みなんて先祖代々誰かがとっくに使用済み。
posted by ちむ at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 私情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月31日

動。

私の場所はココじゃ無くなったみたい。

確実にココは気持ちのいい場所だった。

朝も昼も夜も苦しくてもやっぱりここに戻って来たかった。

でも今は違うみたい。

場所は変化する。

どんなに駄々をこねてもギリギリまで駄々をこねても、

いつかは動く事になる。

知らない間に大陸が動いてく。

戻ってくるかどうかは分からない。

少なくとも今はココではないみたい。

自分だけのあったかい毛布が名残惜しい。
posted by ちむ at 05:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月30日

手を足を目を止められ。

テレビで見る芸能人て、

視聴者には本当に上の上の上ずみの部分しか見えへんけど、

それでも、ほっしゃん。て、

絶対ええ奴な気がして全然憎めへんくて凄く応援したくて愛したい感じ。

芸人からしたら応援されるよりいい奴と言われるより、

笑ってくれ芸を見てくれと思うやろうけど、

私はほっしゃん。の上ずみしか見えないちょっとの部分の

「芸」じゃなくて「人」の部分に惹かれた。

テレビを見るとき、そこで行われてる中心的事柄よりも、

外野に居る人の顔や、言い終わった後の顔などを垣間見るのが好き。

テレビの向こう非現実(現実だけど)の中から、

何か現実的なものを感じたいんかな。

もちろんほっしゃん。の芸は大好きなんやけど。

どこが好きかうまく言えへんなぁ。顔も好きやし。

この人は気ぃつかいやなぁとか。引きつった笑い方とかから、

優しいが染み出てる気がする。

人一人一生懸命に生きてる姿がなんか嬉しくて、

彼には敵がおらんような、そんな気がした。
posted by ちむ at 03:42| Comment(0) | TrackBack(1) | 私情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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